賃金制度は会社の文化(従業員に対する処遇方針)に深く根ざしており、各社それぞれの状況に応じて変えるべきものです。
従いまして、本稿はあくまでも一つの考え方をご提示するものとお考えくださいましたら幸いです。
まず、次の4点は賃金制度を検討する際、大変重要な前提となるので、ご認識おきください。
① | 賃金は労働契約の重要な要件であり、法律上も一方的な降給はできない |
② | 人件費総額を減らさず個々人への賃金配分を変更する場合でも、合理性を担保する必要があり、降給の際には経過措置を設けるべきである |
③ | 賃金の昇降給方法や手続きについて、就業規則や賃金規程に要件が明記されている必要がある |
④ | 給与は従業員の生活と直結するので、制度変更する場合は十分かつ事前に説明し理解を得るものとし、無用の混乱を引き起こさないように配慮する |
「月給」は「所定内賃金」と「所定外賃金」から構成されますが、賃金設計で重要なのは「所定内賃金」です。
(1)所定内賃金
所定内賃金は、基本給と手当の合計です。
基本給は「基本給」として単独で成り立っている場合もありますが、内訳として「本給(役割給、職務給や職能給と表現することもあります)」、「年齢給」、「勤続給」などが含まれているケースもあります。
手当には以下のようなものがあり、会社固有の方針や考え方に基づいて付与します。
・役職手当(役付手当)
・管理職手当
・営業手当
・公的資格手当
・出向手当
・地域手当
・食事手当
・精勤手当
・家族手当
・通勤手当
・別居手当
・子女教育手当
・住宅手当
上記のうち、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当以外の手当は、時間外労働の割増賃金計算の際、算入する必要があります。
また、家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当の名称を使用していても、割増賃金計算の際に除外するには、一定の要件がありますので注意が必要です。
(2)基本給の設計
1)等級ごとの下限と上限の設定
基本給を設定するときには、等級ごとに下限と上限の金額を決めます。これを「等級別基本給レンジ」といいます。
基本給が本給、年齢給、勤続給などに分かれていて内訳がある場合、本給部分(役割給、職務給や職能給といわれるケースもあります)の下限と上限(等級別本給レンジと呼ばれる)を設定します。
年齢給と勤続給は、大企業を中心に廃止される傾向にありますが、そういったトレンドを真似る必要はありません。
自社にとって年齢給と勤続給に意義があるかないかを個別に吟味して方針を決定しましょう。
なお当社ではこれまで数多くの賃金コンサルティングに携わってきましたが、年齢給と勤続給を廃止したのは1社だけです。
等級別基本給レンジの水準や幅は各社各様ですから「正しい水準や幅」はありません。
会社の実情と業界の賃金水準を考慮して設定してください。
2)評価結果に基づく昇降給額の設定
等級別基本給レンジの水準と幅を決めたら、評価結果に基づく昇降給額を設定します。
等級別・評語(評価結果のS, A, B, C, D, Eのこと)別に昇降給額を決めていきます。
こうして等級別基本給レンジの水準と幅、等級別・評語別昇降給額が決まれば、基本給の設定は完了します。
なお、まだまだ多くの会社で等級別の号俸表をお持ちですが、当社では不要と考えています。号俸表があるとピッチが固定され、柔軟な運用を妨げる要因となるためです。
号俸表を廃止し、基本給は等級ごとの下限と上限の間で幅を持たせる方法をお勧めいたします。
(3)手当の設計
当社では各種手当のうち「役職手当(役付手当)」のみならず、「管理職手当」が必要不可欠と考えています。
部下ありの管理職と部下なしの管理職では、マネジメントに必要な労力に差がありますし、部下ありの管理職でもマネジメントする人数に応じて差をつける必要があります。
これらの労力差を適切に処遇するために、「管理職手当」を利用する必要があります。
その他の手当については、企業ごとの従業員の勤務の実情、過去の支給経緯を鑑みて設定してください。
【賞与の基本ルール】
就業規則、賃金規程、労働協約や労働契約によって賞与についての定めがある場合、それらにもとづいて賞与を支給します。
規定がなくても、慣習があればそれに従って支給が必要になるケースもあります。規定も慣習もなければ会社側が合理的な範囲で自由に支給することが可能です。
現実には賞与の算定方法を賃金規程などで定めているケースが多数です。
賞与算定式でよく見かけるのは、以下のようなものです。
賞与額=賞与算定基礎額×評価係数×勤怠係数
※賞与算定基礎額=(基本給)または(基本給+主要手当)
しかしこの算定式の場合、基本給が高ければ賞与も高くなり、低ければ賞与も低いため、必ずしも賞与算定期間内における従業員の働きぶりが適正に評価されません。
すると社員の納得感を得られにくくなります。
そこで賞与の算定式を、個人別の基本給と切り離すのも一つのやり方です。
例えば、算定式に個人別の基本給ではなく等級ごとの標準基本給を設定して適用すると、より公平に評価できるようになります。
退職金については、およそ4社に3社が「ポイント制退職金制度」を導入しているというデータがあります。
(株式会社労務行政(2015) 「退職金・企業年金の実態」 『労政時報』第3899号)
従来の退職金制度では「退職時の基本給連動方式」が主流でした。しかしこれでは、退職時の瞬間的な基本給しか考慮されないので、在職中の功績が正しく評価されず、不合理だと指摘されていました。
ポイント制にすると毎年の貢献度に応じた積立ポイントにより退職金額が決定されるので、勤続中の会社への貢献を正しく反映されます。
より合理的な制度であるといえますから、4社に3社がポイント制退職金であることも納得できます。
ポイント制を導入する場合、積立ポイントの内容と配分を決めなければなりません。
積立ポイントの種類としては、等級ポイント、役職ポイント、評価ポイント、勤続ポイントなどがあります。
配分は「その企業において、何を会社への貢献と考えるか」に応じて各企業が設定します。当社が過去に退職金制度を設計した事例においては、等級+役職ポイントで6~7割、評価ポイントで2~3割、勤続ポイントで1割とするケースが多数でした。
(2016年2月27日公開)
(2020年2月29日更新)
【ご案内】
このような賃金体系を御社流に構築するのが、「 経営人事コンサルティングプログラム 」になります。
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