本稿では、営業力の強化方法とともに、結果主義に陥りがちな営業員の人事評価の適切な方法についても解説してまいります。
会社にとって営業部門は、顧客と直接の接点を持ち収益を生み出す「経営的に最重要の機能」です。
最重要の機能にもかかわらず、組織的な営業よりも、営業員個人の力量に依存していることが多く、最も改革の遅れている機能といえます。
日本では、ここ20年間GDP(国内総生産)がほとんど拡大しておらず、今後もますます環境が厳しくなっていくと想定されます。
こういった状況の中、営業員個人に依存する営業から脱却し、「営業の仕組み」を構築して組織的に営業力を強化することにより、参入マーケットで勝者となるべく改革を進める必要があります。
当社の営業力強化の方法論は、営業員個人に焦点を当てることなく、営業組織としての「営業シナリオの策定」と「営業プロセスの設計」を中核としており、詳細については第2章から解説します。
また本稿では営業員の正しい「人事評価」についても提案します。
多くの企業では、営業員は「売上や利益などの目標達成率によって評価できる」という結果主義的な誤った考えにもとづいて、安易な人事評価項目や指標によって営業員を管理しています。
つまり活動結果である売上や利益、訪問回数などを「KPI管理(※)」と称して、営業を適切に評価できると考えているのです。
(※KPI:Key Performance Indicators 重要業績評価指標)
しかしこれは錯覚です。 目標達成率や営業員依存型の評価項目では、営業力強化を実現することは不可能です。
当社は営業コンサルティングと人事コンサルティングの両方を実施しているため、営業コンサルティングの際に人事評価項目も同時に改定することがあります。
このとき、営業員についての人事評価項目を一から見直す必要があるケースが多々あるのです。
具体的な人事評価項目については、第3章から営業力強化策とともに詳説します。
当社はこれまでの営業コンサルティングの経験から、営業力強化のためには次の3原則が必須と考えています。
【営業力強化 原則1】「個人商店の集合体としての営業」から「組織営業」に変革する
【営業力強化 原則2】「経験と勘の営業」から「プロセスを重視した営業」に変革する
【営業力強化 原則3】「結果管理の営業」から「事前管理の営業」に変革する
3原則の中で核となるのは、原則2の「プロセスを重視した営業」です。
営業活動全体のプロセスを設計し、プロセスにもとづいた営業を行うことで、組織営業(原則1)と事前管理の営業(原則3)を実践していくのです。
最初に営業部門としての「営業シナリオ」を策定し、次にシナリオ実現に向けての「営業プロセス」を設計し、その方向性に沿った営業活動をするように、営業管理者がマネジメントしていく方法です。
営業シナリオ、営業プロセス、マネジメントの3要素を徹底的に実践することによって、営業員のスキルアップも実現可能となります。
次章から、営業シナリオと営業プロセスについて解説しますが、B to B(B2B)のビジネスを前提にいたします。
また「商品」は、「製品」または「サービス」を意味するものとします。
営業力強化の際に、最初に組織で検討するのが「営業シナリオ」の作成です。営業シナリオとは、顧客ごとに次の内容を明確にしたもので、営業員自身に作成させます。
①顧客の求めるものや方針はどのようなものか
②顧客は自社をどのように評価しているのか
③顧客をどのように位置づけるか
④顧客と今後どのように関わっていくのか
⑤そのために、顧客とどのような接点を持つのか
⑥どの商品にどれだけの売上と利益を期待するのか
⑦そのためにどのような提案を行うのか
⑧どれだけの資源を投入するのか
(※上記の8項目はあくまでも例示であって、営業シナリオの全てではありません。)
営業シナリオは、部門の営業戦略を顧客別に展開するもので、営業方針管理の中核となります。また以下のような重要な役割を果たします。
イ)営業職の「個人商店化」を防止し、営業方針に沿って活動させる
ロ)営業員の活動に迷いが生じた際に、活動の拠り所となる
ハ)営業戦略を実行して目標を達成する
経営方針が営業方針に正しく反映され、適切な営業施策が行われているかチェックするため、営業マネジャーや個々の営業員のみならず、適切なタイミングで経営陣も営業シナリオの内容を確認する必要があります。
このように営業シナリオは非常に重要なのですが、残念なことに、営業員が適切に営業シナリオを作成できている会社は少数です。
シナリオとして作成されていないだけで、営業員の頭の中にしっかりと営業方針に沿ったシナリオが描かれており、営業活動の源となっていればよいのですが、そのようなケースはまずありません。
当社が営業コンサルティングで営業シナリオ策定用の帳票をお渡ししたとき、適切に内容を記載できる営業員は、多くの場合1割~3割程度です。
このような状態で営業目標を達成するのは非常に困難です。
従来どおりの営業活動を行って、数値的に目標達成できた営業員がいても、それは過去の取引関係の延長線上の結果に過ぎず、現在の営業方針にもとづいた活動の結果ではありません。それでは長期的な視点で営業の実績(会社の収益)を伸ばしていくことは不可能です。
また結果のみに依存して営業の人事評価をしていると、営業職員が会社の方針と異なる行動をとっていても「目標達成した」という理由だけで、高く評価されることになってしまうので注意が必要です。
正しく人事評価するには、結果指標の目標だけではなく以下の3つの項目を用います。
①営業職員自身が適切な営業シナリオを策定できたかどうか
②作成した営業シナリオに沿って、営業プロセスに基づいて活動できたかどうか
③ゴールに到達できたかどうか
ここではまず「①営業職員自身がシナリオを策定できたか」が評価項目となることを理解してください。実際に営業シナリオを効果的に策定・活用できている会社では、独力での営業シナリオ作成が必須の評価項目になっています。
「②営業シナリオに沿って、営業プロセスに基づいて活動できたかどうか」「③ゴールに到達できたかどうか」については、次章で詳しく見ていきます。
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