これまでの内容は、経営方針管理のうち主に「マネジメントシステム構築段階」に関するものでした。
11章からは「実行段階」におけるポイントを解説してまいります。
経営方針管理の目的は、企業成果をあげることです。
そして企業成果をあげるための要諦は、「マネジメント」と「時間管理」です。
マネジメントについては、「 マネジメント基礎 」で解説していますので、本章では「時間管理」について解説します。
当社は、企業成果は「戦略」「戦術」「計画」「活動」の4因子の積によって表すことができると考えています。
企業成果(business results)=
良い戦略① (strategy) |
× | 良い戦術② (tactics) |
× | 良い計画 (行動量)③ (plan) |
× | 良質な活動④ (activities) |
※良い戦略・良い戦術・良い計画・良質な活動が揃っていれば企業成果は向上します
※どの一つが欠けても高い企業成果は得られません
「①良い戦略」~「④良質な活動」の時間管理のポイントについて解説します。
1.良い戦略①・良い戦術②のための時間管理
1)良い戦略①を立案するための時間管理
戦略立案を行うべき立場の人は、役員と管理職です。
当社では、「等級」によって戦略についての時間軸及び役割分担を明確にしています。
図表3.等級と経営マネジメントの役割分担
役員は将来を見据えて構想するので「将来構想(長期戦略)」、上級管理層は役員による将来構想を受けて全社戦略を立案するので「中期戦略」を担います。
また、管理層は全社戦略を部門・部署戦略へと展開し、さらにそれらを年度に分解して、年度全社戦略ならびに年度部門・部署戦略を立案します。
※経営環境変化が激しい業界はこの限りではありません。
したがって管理層以上の等級では、中長期にわたる「将来のあるべき姿」をしっかり描く必要があります。戦略は「計画」段階において、会社が成果をあげるための最重要事項といえます。
しかしながら、多くの企業の管理職は、目の前にある「過去~現在の活動にもとづく問題」を解決することに時間と労力を投入するばかりで、将来のあるべき姿についての考えを持っていません。当然、あるべき姿を描くために必要な情報収集もまったくできていません。
企業があるべき姿を実現するために有効な戦略立案には、できるだけ精度の高い仮説が必要ですから、良質な情報収集が欠かせないのです。
管理層以上が目の前の問題に囚われたままでは、その会社ではいつまでも有効な戦略を立てられません。この問題を解決するためには、経営機能それぞれがしっかりとしたマネジメントシステムを構築し、「過去~現在の活動にもとづく問題」を発生させにくいプロセスを構築する必要があります。
そのためには、指導層による「良い戦術」の構築が必須になります。
2)良い戦術②を構築するための時間管理
図表3に示したとおり、戦術構築は指導層が担うべき役割です。
指導層は、管理層が表明した年度部署戦略をどのような「やり方(プロセス)」で実行すれば効率的・効果的に実現できるかを検討します。必要に応じて管理職の支援を受けながら情報収集を継続し、主体的に考えていく必要があります。
年度部署戦略実現の「やり方(プロセス)」を検討する際、組織におけるマネジメントシステムとしてプロセス構築することが大切です。このことにより指導層と初級層の活動(インプットに対するアウトプット)を確かなものとし、問題の発生を最小限に抑えることが可能となります。
企業内マネジメントの際、プロセス構築の時間を指導層に確保させることが非常に重要です。それによって、管理層以上の時間を現在から将来へと振り向けていくのです。
情報収集にかける時間の重要性についてのドラッカーの言葉をご紹介します。
多少なりとも成果と業績をあげるには、組織全体の成果と業績に焦点を合わせなければならない。
したがって、自らの目を、仕事から成果へ、専門分野から外の世界、すなわち成果が存在する唯一の場所たる外の世界へ向けるための時間を必要とする。
P.F.ドラッカー著 上田惇夫訳 『ドラッカー名著集1 経営者の条件』(ダイヤモンド社、2006年、51頁)
2.良い計画(行動量)③のための時間管理
まずは「良い計画(行動量)」について解説します。
以下では分かりやすくするため、営業機能における「良い計画(行動量)」を考えてみます。
※営業機能における「良い戦略」とは営業シナリオを正しく策定すること、「良い戦術」と「良質な活動」は営業プロセスを正しく構築することを意味します。
営業における「良い計画(行動量)」は、商談時間を最大化することです。そのため、商談時間以外の時間を如何に縮小・排除するかが鍵となります。
ただし個別の営業職員に対し「商談時間を増やすために、それ以外の時間を減らしなさい」と言うだけでは足りません。
営業職員の投入時間の内訳や内容を測定・分析して、「あるべき姿(商談時間が最大化された状態)」となるよう管理していかなければなりません。
したがって、当社が営業コンサルティングを進める場合、はじめに時間分析を行うようにしています。
その概要を解説します。
1)投入時間の中身を測定・分析
当社では、営業員の投入時間を標準として以下の9つのカテゴリーに分類します。
①商談
②面談
③受注業務
④企画
⑤情報収集
⑥社内業務(レビュー・指導含む)
⑦社内事務
⑧会議
⑨移動
※実際に時間分析を行う際には、企業の営業特性に応じて上記をさらにカスタマイズします
営業日報には、投入した時間とともにカテゴリーも入力します。
このようにして定期的に時間分析を行い、営業職員の望ましい投入時間の状態を実現できているかどうか、確認し続けます。
2)投入時間の改善施策
時間分析結果をレビューするときに重要な視点は、主に次の3つです。
i) 仕事の生産性の確認
投入時間とアウトプットに関する情報から仕事の生産性を個人別に確認します
ii) 期待役割(職責)の実行度
等級要件に応じた適切なレベルの役割(職責)を果たせているか、下の者に任せられることをわざわざやっていないかなど確認します
iii) 無駄の排除
やらなくて良いことをやっていないか、つまりやるべきことをやらず、やらなくて良い作業を創り出していないかなど確認します
上記の視点をもって時間分析を行い、その結果にもとづいて、商談時間を増やすよう改善し、あるべき投入時間の姿を実現していきます。
良い計画を実現するには、マネジャーが継続的に時間分析結果をレビューし続ける必要があります。
部下一人当たりの年間労働時間は、時間外労働を除くと1,800時間~2,000時間程度しかありません。この限られた時間にどのような行動をさせるかによって、部門の成果が決まるのです。
成果を上げるには時間を最大限に有効活用しなければなりません。マネジャーは部下の行動を継続的に細やかに観察し、問題がある場合には速やかに行動修正させるべきなのです。
時間管理の重要性についてドラッカーが述べている言葉をご紹介します。
私の観察では、成果をあげる者は仕事からスタートしない。時間からスタートする。計画からもスタートしない。時間が何に取られているかを明らかにすることからスタートする。
次に時間を管理すべく、時間に対する非生産的な要求を退ける。
そして最後にそうして得られた自由になる時間を大きくまとめる。
したがって、時間を記録する、整理する、まとめるの三段階にわたるプロセスが、成果をあげるための時間管理の基本となる。
P.F.ドラッカー著 上田惇夫訳 『ドラッカー名著集1 経営者の条件』(ダイヤモンド社、2006年、46頁)
3.良質な活動④のための時間管理
企業成果をあげるために重要な因子の4番目は、「良質な活動」です。
「良質な活動」は、経営活動の質をあげるものですから、検討に際しては従業員の「行動の質」が問われます。
行動の質が高くなれば、効果的・効率的に活動できるので、求められる水準のアウトプットも短時間で達成できるようになります。そこで「良質な活動」においては時間管理も重要な要素の1つとなります。
行動の質を高めるには、以下の2つのアプローチが求められます。
1.業務プロセスの最適化
2.業務遂行する従業員の育成
「従業員の育成」については、コラムの人材育成体系の考え方で解説していますので、ここでは、行動の質を高めるための「業務プロセスの最適化」について解説します。
多くの企業において、業務プロセスの最適化をはかるため経営機能それぞれが独立して対策をしています。しかしながら、それでは部分最適になってしまい、全体最適になりません。
全体最適を実現するには、業務品質マネジメントシステム・人事マネジメントシステム・人材マネジメントシステムをしっかりと連動させて、年度経営方針に沿った活動を進める必要があります(下図4参照)。
図表4.全体最適にするためのマネジメントシステム
※略語は、それぞれ以下のとおりです。
経営方針マネジメントシステム (Policy Management System)
タイムマネジメントシステム (Time Management System)
業務品質マネジメントシステム (Quality Management System)
人事マネジメントシステム (Personnel Management System)
人材マネジメントシステム (Human resource Management System)
なお上記で「マネジメントシステム」という言葉を使用していますが、ISOの認証取得を前提とするわけではありません。
本稿でのマネジメントシステムの定義は、「組織的に統制された活動を行うための仕組み」とご理解ください。
参考までにISO9000:2015における「マネジメントシステム」の定義をご紹介しておきます。
JIS Q 9000:2015 3.5.3 マネジメントシステム(management system)
方針及び目標,並びにその目標を達成するためのプロセスを確立するための,相互に関連する又は相互に作用する,組織の一連の要素.
日本規格協会編『対訳 ISO9001:2015(JIS Q 9001:2015) 品質マネジメントの国際規格 ポケット版』(日本規格協会、2016年、323頁)
上の図表4で緑色の文字で示している「業務品質マネジメントシステム」は、モノの製造、品質管理や品質保証などの生産や製造機能のみを対象にするものではありません。
「マーケティング」「企画」「営業」「研究開発」「物流」「サービス」「管理」など、すべての経営機能について、効果的・効率的に活動するための組織的な仕組みとお考えください。
なお「人事マネジメントシステム」と「人材マネジメントシステム」を切り分けているのは、「人事評価・処遇の決定」と「人材育成」を分けて、両面から業務品質マネジメントシステムと連動させつつマネジメントしなければならないためです。