9章では、経営方針のマネジメントシステム構築のポイントの2点目として、仕事(=プロセス)の生産性を向上させる管理方法について解説します。
ドラッカーは、生産性の高い仕事(=プロセス)を実現する管理方法のポイントとして、次の5点を挙げています。
仕事とはプロセスである。プロセスはすべて管理しなければならない。
したがって、仕事を生産的なものとするには、仕事のプロセスに管理手段を組み込まなければならない。
特に次の点に関して、管理手段を組み込んでおかなければならない。
(1)プロセスの方向性
(2)プロセスの質
(3)プロセスの産出量
(4)プロセスの保全と安全
(5)プロセスの効率
P.F.ドラッカー著 上田惇夫訳 『ドラッカー名著集14 マネジメント [上] -課題、責任、実践』(ダイヤモンド社、2008年、266頁)
(1)~(5)について解説します。
(1)プロセスの方向性
プロセスの目標(ゴール)を達成するには、効果的にマネジメントできるよう方向性を定める必要があります。
また経営活動プロセスは相互に関連する複数のプロセスから構成されるものです。そこで経営方針管理のシステム全体からみて、それぞれのプロセスの方向性が正しいといえるか、検証できるようにします。
(2)プロセスの質
プロセスの目標(ゴール)を達成するために効果的な内容となっているか、運用時にそのパフォーマンスを監視・分析・評価します。
またその結果に基づいて継続的に改善を検討・実施し、質を高めていきます。
(3)プロセスの産出量
プロセスの目標(ゴール)を達成するため、現実のアウトプットが期待や予測を満たしているか監視・分析・評価します。上記の「プロセスの質」とともに継続的に改善を行い、インプットに対するアウトプットを最大化していきます。
(4)プロセスの保全と安全
プロセスの質や生産量を維持するには、プロセスそのものを保全する必要があります。また人材などの資源を確保し続けるため、安全性への考慮も要求されます。
例を挙げると、人的資源の安全のためにOHSAS18001 労働安全衛生マネジメントに基づくシステムを構築するなどの対応を行います(2017年にISO45001として発効)。
(5)プロセスの効率
効率的にプロセスの目標(ゴール)を達成するためには、プロセスの生産性についての検証が必要です。プロセスのアウトプットがプロセスへの投入資源に対して最大化するようマネジメントしていきます。
以上の考え方については、生産的な仕事(7章)でご紹介した「JIS Q 9000:2015 2.3.4 プロセスアプローチ」が参考になります。再度掲載しますのでご確認ください。
JIS Q 9000:2015 2.3.4 プロセスアプローチ
2.3.4 プロセスアプローチ
2.3.4.1 説明
活動を,首尾一貫したシステムとして機能する相互に関連するプロセスであると理解し,マネジメントすることによって,矛盾のない予測可能な結果が,より効果的かつ効率的に達成できる.
2.3.4.2 根拠
QMS(※筆者注 品質マネジメントシステム,以下同様)は,相互に関連するプロセスで構成される.このシステムによって結果がどのように生み出せるかを理解することで,組織は,システム及びそのパフォーマンスを最適化できる.
2.3.4.3 主な便益
あり得る主な便益を,次に示す.
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主要なプロセス及び改善のための機会に注力する能力の向上 |
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密接に関連付けられたプロセスから構成されるシステムを通して得られる矛盾のない,予測可能な成果 |
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効果的なプロセスのマネジメント,資源の効率的な利用,および機能間の障壁の低減を通して得られるパフォーマンスの最適化 |
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組織に整合性があり,有効でかつ効率的であることに関して利害関係者に信頼感を与えることができるようになる |
2.3.4.4 取り得る行動
取り得る行動を,次に示す.
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システムの目標,及びそれらを達成するために必要なプロセスを定める. |
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プロセスをマネジメントするための権限,責任及び説明責任(accountability)を確立する. |
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組織の実現能力を理解し,実行前に資源の制約を明確にする. |
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プロセスの相互依存関係を明確にし,システム全体で個々のプロセスへの変更の影響を分析する. |
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組織の品質目標を効果的及び効率的に達成するために,プロセス及びその相互関係をシステムとしてマネジメントする. |
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プロセスを運用し,改善するとともに,システム全体のパフォーマンスを監視し,分析し,評価するための必要な情報が利用できる状態にあることを確実にする. |
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プロセスのアウトプット及びQMSの全体的な成果に影響を与え得るリスクを管理する. |
日本規格協会編『対訳 ISO9001:2015(JIS Q 9001:2015) 品質マネジメントの国際規格 ポケット版』(日本規格協会、2016年、251,253,255頁)
以上のようにプロセスの生産性を高めるには、プロセスの管理方法を明確にして、リスクを回避しながら効率的に目標(ゴール)を達成することが重要です。
10章では、経営方針のマネジメントシステム構築のポイントの3点目として、仕事(=プロセス)の対象ごとに管理方法について解説します。
プロセスの管理について、ドラッカーは次のように述べています。
プロセスの管理とは、平均的な能力の者が、卓越した者並みの仕事ができるようにするものである。
この原則を無視し、例外を処理しようとする管理は機能のしようがない。三%の理解しがたいもののために、理解している九七%を犠牲にすることになる。
例外はなくせない。しかし、生産のプロセスからなくすことはできる。
それぞれ例外として別個に処理することはできる。
管理においては、定型と例外の徹底した検討が不可欠である。
P.F.ドラッカー著 上田惇夫訳 『ドラッカー名著集14 マネジメント [上] -課題、責任、実践』(ダイヤモンド社、2008年、270頁~272頁を一部抜粋)
ここではプロセスを管理する際、定型と例外を明確に分けて管理すべきとされています。
ドラッカーの提唱する「定型」とはどのようなものなのでしょうか?確認していきましょう。
仕事の定型度には三つの種類がある。
第一に、インプットとアウトプットの双方が定型的な場合である。
第二に、多様に見えながら、パターンが定型的な場合である。
第三に、特別な状況ばかりの場合である。
実は、この第三の種類のパターンこそ重要である。知識労働すなわち教師、医師、その他プロフェッショナルの仕事に典型的なものだからである。プロフェッショナルとは、基本的に一人で動く者である。特別の状況を扱うものである。そのようなとき、管理は自らが定めた基準をもって行うほかない。
P.F.ドラッカー著 上田惇夫訳 『ドラッカー名著集14 マネジメント [上] -課題、責任、実践』(ダイヤモンド社、2008年、272頁~274頁を一部抜粋)
上記からすると、望ましいプロセス管理方法として以下のように対応すべきと考えられます。
1.定型プロセスと例外プロセスを判別する
2.定型プロセスに対しては、適切な管理手段の組み込みによって対応する
3.例外プロセスに対しては、そのプロセスの専門性の程度(プロフェッショナル度)に応じ、適切な者に委任する
これらの考え方は「JIS Q 9001:2015 8.5.1 製造及びサービス提供の管理」の要求事項の一部にもなっています。ドラッカーの書籍では、プロセスを構築するための詳細について書かれているわけではありませんので、実際に構築される際は、JIS Q 9001の要求事項を参照されることをお勧めします。参考のために、8.5.1 製造及びサービス提供の管理を記載しておきます。
8.5.1 製造及びサービス提供の管理(Control of production and service provision)
組織は,製造及びサービス提供を,管理された状態で実行しなければならない.
管理された状態には,次の事項のうち,該当するものについては,必ず,含めなければならない.
a) |
次の事項を定めた文書化した情報を利用できるようにする. |
b) |
監視及び測定のための適切な資源を利用できるようにし,かつ,使用する. |
c) |
プロセス又はアウトプットの管理基準,並びに製品及びサービスの合否判定基準を満たしていることを検証するために,適切な段階で監視及び測定活動を実施する. |
d) |
プロセスの運用のための適切なインフラストラクチャ及び環境を使用する. |
e) |
必要な適格性を含め,力量を備えた人々を任命する. |
f) |
製造及びサービス提供のプロセスで結果として生じるアウトプットを,それ以降の監視又は測定で検証することが不可能な場合には,製造及びサービス提供に関するプロセスの,計画した結果を達成する能力について,妥当性確認を行い,定期的に妥当性を再確認する. |
g) |
ヒューマンエラーを防止するための処置を実施する. |
h) |
リリース,顧客への引渡し及び引渡し後の活動を実施する. |
日本規格協会編『対訳 ISO9001:2015(JIS Q 9001:2015) 品質マネジメントの国際規格 ポケット版』(日本規格協会、2016年、131,133頁)
ドラッカーが特に強調する「例外的な特別な状況はプロフェッショナルに任せよ」の意味内容は、上記の8.5.1 製造及びサービス提供の管理における「e) 必要な適格性を含め,力量を備えた人々を任命する.」と同義です。
つまりドラッカーのいう「プロフェッショナル」は、ISO9001:2015(JIS Q 9001:2015)の用語では「力量を備えた人」であると分かります。
ISO9001でよく使う「力量」という用語の意味については、すでにご紹介しましたが、ISO9001:2015(JIS Q 9001:2015)において定義されているので再掲しておきます。
7.2 力量(Competence)
組織は,次の事項を行わなければならない.
a) |
品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務をその管理下で行う人(又は人々)に必要な力量を明確にする. |
b) |
適切な教育,訓練又は経験に基づいて,それらの人々が力量を備えていることを確実にする. |
c) |
該当する場合には,必ず,必要な力量を身に付けるための処置をとり,とった処置の有効性を評価する. |
d) |
力量の証拠として,適切な文書化した情報を保持する. |
注記 |
適用される処置には,例えば,現在雇用している人々に対する,教育訓練の提供,指導の実施,配置転換の実施などがあり,また,力量を備えた人々の雇用,そうした人々との契約締結などもあり得る. |
日本規格協会編『対訳 ISO9001:2015(JIS Q 9001:2015) 品質マネジメントの国際規格 ポケット版』(日本規格協会、2016年、95,97頁)