ドラッカーは、働きがいについて次のように述べています。
働きがいを与えるには、仕事そのものに責任を持たせなければならない。そのためには、①生産的な仕事、②フィードバック情報、③継続学習が不可欠である。(中略)これら三つの条件、すなわち生産的な仕事、フィードバック情報、継続学習は、働く者が自らの仕事、集団、成果について責任を持つための、いわば基盤である。
P.F.ドラッカー著 上田惇夫編訳 『マネジメント エッセンシャル版 基本と原則』(ダイヤモンド社、2001年、74頁)
ここで働きがいを与えるために不可欠とされているのは、①生産的な仕事、②フィードバック情報、③継続学習です。順番にみていきます。
①生産的な仕事
ドラッカーの提唱する「生産的な仕事」を実現するには以下の4つのステップが必要です。
イ)仕事を分析する
ロ)プロセスを構築する
ハ)管理手段と基準を明確にする
ニ)ツールを設計する
またドラッカーは「生産的な仕事」が実現できていない状態で仕事に責任を持たせようとしても無駄であると断言しています。
P.F.ドラッカー著 上田惇夫編訳 『マネジメント エッセンシャル版 基本と原則』(ダイヤモンド社、2001年、74頁)
そこで上司には、部下が生産的に仕事をできるように適切にマネジメントすることを求められます。
実はドラッカーの「生産的な仕事」の考え方は、ISO9001:2015(JIS Q 9001:2015)のプロセスアプローチとほぼ同義です。
以下でJIS Q 9001:2015の品質マネジメントの原則で説明されているプロセスアプローチならびにJIS Q 9000:2015のプロセスアプローチの用語の定義を引用しますので、生産的な仕事の仕組みを構築する場合のヒントにしてください。
JIS Q 9001:2015 0.3 プロセスアプローチ(一部抜粋)
システムとして相互に関連するプロセスを理解し,マネジメントすることは,組織が効果的かつ効率的に意図した結果を達成する上で役立つ.組織は,このアプローチによって,システムのプロセス間の相互関係及び相互依存性を管理することができ,それによって,組織の全体的なパフォーマンスを向上させることができる.
プロセスアプローチは,組織の品質方針及び戦略的な方向性に従って意図した結果を達成するために,プロセス及びその相互作用を体系的に定義し,マネジメントすることに関わる.
品質マネジメントシステムでプロセスアプローチを適用すると,次の事項が可能になる.
a) 要求事項の理解及びその一貫した充足
b) 付加価値の点からの,プロセスの検討
c) 効果的なプロセスパフォーマンスの達成
d) データ及び情報の評価に基づく,プロセスの改善
日本規格協会編『対訳 ISO9001:2015(JIS Q 9001:2015) 品質マネジメントの国際規格 ポケット版』(日本規格協会、2016年、37,39頁)
JIS Q 9000:2015 2.3.4 プロセスアプローチ
2.3.4 プロセスアプローチ
2.3.4.1 説明
活動を,首尾一貫したシステムとして機能する相互に関連するプロセスであると理解し,マネジメントすることによって,矛盾のない予測可能な結果が,より効果的かつ効率的に達成できる.
2.3.4.2 根拠
QMS(※筆者注 品質マネジメントシステム,以下同様)は,相互に関連するプロセスで構成される.このシステムによって結果がどのように生み出せるかを理解することで,組織は,システム及びそのパフォーマンスを最適化できる.
2.3.4.3 主な便益
あり得る主な便益を,次に示す.
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主要なプロセス及び改善のための機会に注力する能力の向上 |
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密接に関連付けられたプロセスから構成されるシステムを通して得られる矛盾のない,予測可能な成果 |
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効果的なプロセスのマネジメント,資源の効率的な利用,および機能間の障壁の低減を通して得られるパフォーマンスの最適化 |
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組織に整合性があり,有効でかつ効率的であることに関して利害関係者に信頼感を与えることができるようになる |
2.3.4.4 取り得る行動
取り得る行動を,次に示す.
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システムの目標,及びそれらを達成するために必要なプロセスを定める. |
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プロセスをマネジメントするための権限,責任及び説明責任(accountability)を確立する. |
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組織の実現能力を理解し,実行前に資源の制約を明確にする. |
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プロセスの相互依存関係を明確にし,システム全体で個々のプロセスへの変更の影響を分析する. |
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組織の品質目標を効果的及び効率的に達成するために,プロセス及びその相互関係をシステムとしてマネジメントする. |
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プロセスを運用し,改善するとともに,システム全体のパフォーマンスを監視し,分析し,評価するための必要な情報が利用できる状態にあることを確実にする. |
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プロセスのアウトプット及びQMSの全体的な成果に影響を与え得るリスクを管理する. |
日本規格協会編『対訳 ISO9001:2015(JIS Q 9001:2015) 品質マネジメントの国際規格 ポケット版』(日本規格協会、2016年、251,253,255頁)
ここで、生産的な仕事に「失敗するパターン」を具体的な事例にもとづいて解説します。
ある商社の受注センターで、生産的な仕事が全くできていない例がありました。
この商社では多種の商品群を保有しており、注文や問い合わせを電話・FAX等で受けていました。当然ながら、受注担当者の業務遂行上「商品知識」が必要不可欠になります。
ところがこの会社では、採用後の研修時に受注ソフトの使い方を教えるだけで、商品知識に関する教育を一切行っていませんでした。
商品知識については「商品に関する問い合わせで不明点があれば詳しい人に聞いてください」という指示のみが出されていました。
教育を受けずに商品知識がないまま問い合わせの電話に出ると、自分1人で答えられないので、通話を何度も保留して周りに聞きながら応対することになります。すると何度も保留で待たされた顧客にストレスが溜まり、クレームが増加します。
このような状況ですから、この会社では責任感のある人ほど短期間で退職し、慢性的な人材不足に陥っていました。
信じられないような事例ですが、実在の企業です。お世辞にも生産性が高いとはいえない状況です。
このような事態に陥らないために、従業員が生産的な仕事を遂行できるような適切なプロセスアプローチとそれに立脚した業務マネジメントが求められるのです。
②フィードバック情報
仕事の成果に関するフィードバック情報は、部下に対して「自分の仕事ぶりがどう評価されているか」を知らせるものであり、部下自身が自己管理するためにも不可欠です。
適切にフィードバックするには、まずはしっかりと人事評価制度を構築し、その制度に従い、評価者が部下に対して正確な評価結果を伝える必要があります。
そもそも人事評価制度がなければフィードバックをすることができません。また評価制度があっても評価者からのフィードバックがなければ、部下自身が「自分がどう評価されているか、会社から承認されているか」ということがわからないために動機づけされにくくなります。
またフィードバックするタイミングは評価時期だけでは足りません。部下の行動を注視しつつ、日々のマネジメントにおいても実施し続けてください。
人事評価制度が運用されていても、フィードバックが不十分な企業が多いので、参考にしてみてください。
③継続学習
ドラッカーは、「知識労働が成果をあげるためには専門化しなければならない。」「知識労働に携わる作業者集団は、学習集団とならなければならない。」と明言しています。
P.F.ドラッカー著 上田惇夫編訳 『マネジメント エッセンシャル版 基本と原則』(ダイヤモンド社、2001年、74頁)
会社は、知識習得や学習を本人任せにせず、マネジメントシステムを構築・適用することによって従業員の知識量の増加ならびに能力向上をはかる必要があります。
具体的には人材育成の仕組みとして、「OJT」「Off-JT」の2本柱を構築することになります。
※人材育成の仕組みについては「 人材育成体系の考え方 」を参考にしてください
なお、当コラムの「 初級層の目標管理とISO9001の活用 」で引用しております ISO9001:2015(JIS Q 9001:2015) の要求事項 7.1.6 組織の知識(Organization knowledge) ならびに 7.2 力量(Competence) は、まさにこの継続学習を含めたマネジメントシステムの構築を求めています。
ぜひ参考にしてください。