SMCコラム

初級層の目標管理とISO9001の活用

1.初級層(一般階層)の目標管理

目標管理制度を導入している企業から「初級層(一般階層)でルーティン業務や現業に携わっている従業員の目標設定方法がわからない」とご相談を受けるケースがよくあります。
全社員に目標管理制度を適用しているものの、「手順書にもとづいて作業をさせているが、個人に与える目標やテーマがない。目標管理シートのテーマ設定をどうすればよいか?」というお悩みが多数です。

個人別のテーマ設定が困難になる理由には、以下のような状況があります。
まず手順書にもとづいて作業している社員については、「作業スピード」「作業の正確性」「ロス削減」などが評価ポイントとなり、これらは通常の評価項目として設定しているでしょう。

次に手順やプロセスの「効率化や改善」が個人別の評価ポイントとなりますが、目標管理制度を導入している多くの企業では「業務改善制度」も制定・運用しており、それを利用すれば効率化や改善についての貢献度を測定できます。するとわざわざ改善制度の帳票と目標管理シートを重複させる必要はなく、評価項目から省かれます。

「生産性」も重要な評価項目と考えられますが、①複数作業を同時並行している、②チームで作業しているなどの理由で、個人別に測定するのは困難なケースが多数です(「評価」ばかりを重視して人事評価のために測定の仕組みを構築し、かえって生産性が低下してしまっては元も子もありません)。

こういった事情があり、目標管理シートの個人別「テーマ設定ができない、という状況に陥ります。

当社では、「初級層(一般階層)でルーティン業務や現業に携わっている従業員」に対し、無理に目標管理制度を適用する必要はないと考えています。

では、どのように評価項目を設計すればよいのでしょうか?

2.当社での初級層(一般階層)の目標管理の考え方

当社では初級層(一般階層)に対して、次のように項目設計するケースが多数です。

図表1.初級層(一般階層)の評価カテゴリー

通常の評価項目

「作業スピード」「作業の正確性」「ロス削減」など
当社では約30項目を標準で用意し、そこからそれぞれの企業の部門方針に沿うように10項目程度を選択しています。

効率化・改善

業務改善制度のアウトプットの部分を人事評価のインプットとします。
業務改善制度を導入していない企業の場合、簡易な制度を導入するか、効率化と改善の達成度を測るための評価表を設計します。

多能化

製造機能で多用される評価項目ですが、初級層(一般階層)においては製造機能に限定せず、全社的な評価項目とするのが望ましいと考えます。
初級層(一般階層)は様々な知識を吸収・活用して、守備範囲の拡大を目指す階層だからです。

上記の3カテゴリーで最重要なのは「多能化」です。
多能化はメーカーを中心として目標管理のテーマにしている企業が多くなっていますが、実はISO9001を認証取得していれば、この目標管理は簡単です。
人事評価にISO9001の仕組みを利用できるからです。

多くの企業においてこの視点が欠けていますので、これより解説します。
なおISO9001を認証取得していない企業においても、ISO9001の考え方を利用できますので、ご参照ください。

3.人事評価で利用するISO9001の要求事項

ISO9001:2015( JIS Q 9001:2015)の要求事項のうち、人事評価制度で利用するのは次の3箇条です。

7.1.2 人々(People)
組織は,品質マネジメントシステムの効果的な実施,並びにそのプロセスの運用及び管理のために必要な人々を明確にし,提供しなければならない.

日本規格協会編『対訳 ISO9001:2015(JIS Q 9001:2015) 品質マネジメントの国際規格 ポケット版』(日本規格協会、2016年、87頁)

【当社流の意訳】
企業は顧客が目的を果たすための商品(製品及びサービス)を確実に提供し、顧客が目的を果たせるべく、十分な力量を持ち適切に責務を果たせる人材(役員・従業員)を配置する必要がある。

7.1.6 組織の知識(Organization knowledge)
組織は,プロセスの運用に必要な知識,並びに製品及びサービスの適合を達成するために必要な知識を明確にしなければならない.
この知識を維持し,必要な範囲で利用できる状態にしなければならない.
変化するニーズ及び傾向に取り組む場合,組織は,現在の知識を考慮し,必要な追加の知識及び要求される更新情報を得る方法又はそれらにアクセスする方法を決定しなければならない.

注記1

組織の知識は,組織に固有な知識であり,それは一般的に経験によって得られる.それは,組織の目標を達成するために使用し,共有する情報である.

注記2

組織の知識は,次の事項に基づいたものであり得る.

a)

内部の知識源(例えば,知的財産,経験から得た知識,成功プロジェクト及び失敗から学んだ教訓,文書化していない知識及び経験の取得及び共有,プロセス,製品及びサービスにおける改善の結果)

b)

外部の知識源(例えば,標準,学界,会議,顧客又は外部の提供者からの知識収集)

日本規格協会編『対訳 ISO9001:2015(JIS Q 9001:2015) 品質マネジメントの国際規格 ポケット版』(日本規格協会、2016年、93,95頁)

【当社流の意訳】
企業は、顧客が目的を果たすための商品(製品及びサービス)を確実に提供するために、自社が保有する知識を明らかにし、継続的に社内で活用できる体制を整える必要がある。
また企業が参入している市場や利害関係者のニーズの変化に伴い、必要に応じてその知識を追加・改定し、業務プロセスや内容についても変化に適合させるべきである。

7.2 力量(Competence)
組織は,次の事項を行わなければならない.

a)

品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に影響を与える業務をその管理下で行う人(又は人々)に必要な力量を明確にする.

b)

適切な教育,訓練又は経験に基づいて,それらの人々が力量を備えていることを確実にする.

c)

該当する場合には,必ず,必要な力量を身に付けるための処置をとり,とった処置の有効性を評価する.

d)

力量の証拠として,適切な文書化した情報を保持する.

注記

適用される処置には,例えば,現在雇用している人々に対する,教育訓練の提供,指導の実施,配置転換の実施などがあり,また,力量を備えた人々の雇用,そうした人々との契約締結などもあり得る.

日本規格協会編『対訳 ISO9001:2015(JIS Q 9001:2015) 品質マネジメントの国際規格 ポケット版』(日本規格協会、2016年、95,97頁)

【当社流の意訳】
企業は、顧客が目的を果たすための商品(製品及びサービス)を確実に提供するために、自社組織の従業員に求められる力量を明らかにする。
人材育成を適切に進め、従業員が十分な力量を保有して行動できるようにするとともに、人材育成方法が適切かどうかも検証する。
どの従業員がどれだけの力量をもって行動できているか、文書でわかる状態にする。

「力量」の定義:「意図した結果を達成するために、知識及び技能を適用する能力」(JIS Q 9000:2015)

以上をお読みいただければ、ISO9001の求めるものが、ごく当たり前の事項であることをご認識いただけたと思います。

この3箇条の要求事項を実現するために必要な内容を実務的にまとめると、以下のとおりです。
①組織ごとの手順書を整備する
②その手順書の実行に必要な知識を明確にする
③従業員にその手順を遂行する技能があるか測定する

これらを実施することで、一人ひとりがどの程度の知識を保有しているか、その知識を活用して実務をどの程度のレベルで実行できているかが明確になります。
これを半期に一度測定し、そのアウトプットを人事評価のインプットとすれば適切に評価できます。
ISO9001はもともと品質管理に関する制度ですが、少なくともここで紹介した3箇条については人事評価につながるので、品質管理機能担当の部署のみならず、人事機能を担当する部署も関与すべきです。
各組織機能の育成責任者とともにマネジメントシステムを構築していくことが必要です。

「簡単に言うな」という読者の皆様の突っ込みが聞こえてきそうですが、一般階層における仕事の遂行力は組織全体の生産性に大きく影響します。
一般階層が手順書にもとづいて正確に実務を遂行できれば仕事の質が高まると同時に、こうしたシステムの構築・運用によって経験の浅い人材の成長スピードを早める効果もあります。
ぜひ参考にしてください。

(2016年5月16日公開)

(2020年2月29日更新)

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